正しい食と適宜の運動、そして明るい心こそが真の健康を築きあげます。ここでは、機関紙「未来」に掲載されたコラムを発信してまいります。

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統合医療とは何だろうか? 第33回

     - 統合医療

以上のお話しから神経や脳の働きと免疫は密接に関連していることがうかがえるのですが、
これをもっと直截的に証明した動物実験もあります。
やはり、「こころと体の対話」に準拠してお話を進めましょう。
たとえばラットの視床下部の一部を破壊すると、
免疫細胞の減少やNK細胞活性の低下、抗体産生の低下などが観察されます。
しかし、これらの変化は下垂体や交感神経を切除しておくと、減弱することもわかっています。
つまり、免疫機能の低下は神経内分泌系や交感神経を介して作用する
視床下部のホメオスタシス機能の低下によることがわかったのです。
こう書きますと、何やら難しく感じられるかもしれませんので卑近な例を引きましょう。
たとえば徹夜の仕事が続いて疲労困憊の状況に陥ると、
ひどい風邪をひいてなかなか風邪が治らないことを経験することがあると思います。
これは肉体のストレス→交感神経緊張→視床下部機能低下→免疫細胞の機能低下→風邪が
なかなか治らないという風に考えられます。これが神経と脳の働きに関連性があるということです。

更にもう一歩進めて、情動ストレスと神経内分泌系の関係のお話をしましょう。
人が心に傷を負う、すなわち情動ストレスがたまると、何が起こるか?
このとき、情動ストレスは視床下部を刺激して副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)と
バゾプレッシンが分泌されます。この2つのホルモンは下垂体に作用して副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)と
βエンドルフィンを放出させます。ACTHは副腎皮質に運ばれ、
ここで副腎皮質ホルモンであるグルココルチコイドを分泌させます。
グルココルチコイドは免疫細胞、特にヘルパーT細胞の働きを抑制させます。
一方βエンドルフィンは抗体産生を抑制するといわれています。
つまり、情動ストレスは交感神経を介さずとも視床下部に働いて、免疫機能を抑制するのです。
過度のストレスという心の在り様は、免疫機能の抑制を介して、人にがんやそのほかの病気を引き起こすのです。


この記事はヨガライフスクールインサッポロ機関紙 「未来」345号(2014年9月5日発行)に掲載された記事です。

著者
小井戸 一光
癒しの森内科・消化器内科クリニック 院長

癒しの森内科・消化器内科クリニック

略歴
1977年、北海道大学医学部卒業。北大第3内科入局、臨床研修を受ける。

1982 年より自治医科大学放射線科で超音波を含む画像診断や、画像を用いておこなうがん治療(IVR)に従事。

1985年より札幌厚生病院消化器内科医長。消化器疾患の診断と内視鏡・IVR治療をおこなう。

1996年より札幌医科大学放射線科助手。消化器疾患の画像診断、がんの非手術的治療の研究に従事。1999年講師、2007年准教授。この間、イギリス王立マースデン病院、ドイツアーヘン大学、カナダカルガリー大学に出向。

認定資格
日本内科学会認定内科医、日本消化器病学会専門医、日本内視鏡学会専門医・指導医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医、日本超音波学会専門医・指導医、医学博士