ハコベ
筆者の子供のころはハコベをよく食べたものです。ハコベはアクもなくやわらかいので、若い部分を摘みとり、そのままか塩を落とした熱湯をさっとくぐらせ、ひたし物、あえ物、汁の実、サラダ、油炒めなどにしたものです。ことに胡麻あえがうまかったことを覚えています。
ハコベにはヒヨコグサ、スズメグサなどの俗称があるように、小鳥の好物で、最近は小鳥の餌さとして愛用される以外、食用にする人を見かけなくなりましたが、これでもれっきとした春の七草の一つです。
けふぞかしなづなはこべら
せり摘みて
はや七種のおものまゐらむ
(慈鎮和尚)
『夫木和歌集』(鎌倉時代)に出ている歌です。七草粥を食べる習俗は、江戸時代になり、五節句の一つと定められたのですが、明治六年一月四日の布告で五節句が廃止されて以来、七草粥の行事は衰えることになります。
ハコベは、早春から晩秋まで、ほとんど一年中花を咲かせます。花がすむとすぐ実になってこぼれ、また花盛りとなります。タンパク質五パーセント、脂肪〇・五パーセント、ビタミンB、Cにも富んでいます。
民間では昔から全草を利尿剤、産後の婦人には催乳、浄血作用があるとして用いられてきました。また炒って乾かし、粉にしたものを塩とまぜて「ハコベ塩」といい、歯磨粉のようにして用いていました。さしずめ、葉緑素入り歯磨粉ということになりますが、この歯磨粉は、歯槽膿漏に有効といわれています。これはハコベのなかの成分が化膿菌の繁殖を抑えるからだと思われますが、定かではありません。
昭和のはじめ、ロンドン軍縮会議首席全権として出発する若槻礼次郎(首相)が盲腸炎になり、ハコベの汁を飲んでよくなったという話はあまりにも有名です。
日高 一
この記事はヨガライフスクールインサッポロ機関紙 「未来」248号(2006年8月5日発行)に掲載された記事です。
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