正しい食と適宜の運動、そして明るい心こそが真の健康を築きあげます。ここでは、機関紙「未来」に掲載されたコラムを発信してまいります。

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統合医療とは何だろうか? 第36回

     - 統合医療

がん統合医療のお話をする前に 何故手術、放射線、抗がん剤でがんが治らないのか?
という点に関してまずお話ししましょう。

ある病気が根本から治るためには、その原因がわからなければ治らないというのは、自明のことです。
例えば、結核は結核菌という細菌が原因でおこる感染症です。
従って結核菌を殺す薬を投与して体内から結核菌がいなくなれば、結核は治るわけです。
では、がんになる原因は何か?といわれると、実はまだ正確にはわからないのです。

国立がんセンターのある研究者は、
「がんの原因は雲の中にあり、その頂きはまだ見えてこない」と言っております。
現在までかろうじてわかっていることは、DNAの複製にミスコピーが起こり、
正常にコピーされないDNAの蓄積ががんを引き起こすということ、
そして、ミスコピーを引き起こす原因物質の一つが活性酸素であろうということぐらいです。
DNAに損傷を与える原因はほかにもあります。
放射線や過度の日光暴露、化学物質(コールタールなど)、煙草などです。
しかし、煙草を吸う人間のすべてががんになるわけではありません。
同じ物質に暴露されてもがんになる人、ならない人がいる原因は不明です。
つまり、がんになる原因ははっきりしない状態で、私たちはがんの治療を受けているわけです。

このような状態でおこなう日本のがん治療はどのようなものかというと、
見えるがんを根こそぎ取り払う(外科手術)、放射線でがんを焼き払う、
そして絨毯爆撃のように抗がん剤を投与するという方法です。
これらに共通しているのは、すべてがんを異物として追い払うという発想です。
しかし、がんもつわものです。がんはひそかに原発部位から離れて生き延び(転移)、
放射線や抗がん剤に対しては耐性を必ず獲得してこれらが効かなくなります(エスケープ現象)。
これは、立花 隆さんがおっしゃるように、
人間が過酷な環境に適合するように遺伝子を変化させてこれまで、
猿人から原人となったおよそ180万年前から(無論ヒトとなるその前からでしょうが)
現在まで生き延びてきたことを連想させます。

つまり、もともと私たちの正常細胞から発生したがん細胞は、
私たちが生き延びてきたのと同じメカニズムを用いて
放射線や抗がん剤という過酷な環境を生き延びているといってもいいでしょう。
従って、がん細胞は将来どのような治療法が出ても、
がんを有する個体が死滅しない限り絶滅させるのは不可能だと私は考えています。


この記事はヨガライフスクールインサッポロ機関紙 「未来」350号(2015年2月5日発行)に掲載された記事です。

著者
小井戸 一光
癒しの森内科・消化器内科クリニック 院長

癒しの森内科・消化器内科クリニック

略歴
1977年、北海道大学医学部卒業。北大第3内科入局、臨床研修を受ける。

1982 年より自治医科大学放射線科で超音波を含む画像診断や、画像を用いておこなうがん治療(IVR)に従事。

1985年より札幌厚生病院消化器内科医長。消化器疾患の診断と内視鏡・IVR治療をおこなう。

1996年より札幌医科大学放射線科助手。消化器疾患の画像診断、がんの非手術的治療の研究に従事。1999年講師、2007年准教授。この間、イギリス王立マースデン病院、ドイツアーヘン大学、カナダカルガリー大学に出向。

認定資格
日本内科学会認定内科医、日本消化器病学会専門医、日本内視鏡学会専門医・指導医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医、日本超音波学会専門医・指導医、医学博士