ヴィシュヌとブッダ
- インド哲学
昨年は、コロナ感染が拡大して辛く厳しい一年でした。
今年こそは、皆ストレスなく過ごせる年であってほしいですね。
今回は、ヒンドゥー教の神さまヴィシュヌ神と、仏教の開祖ブッダを仲良く取りあげてみましょう。
ヴィシュヌ神は、古代インドのヴェーダといわれる文献の中にすでに見られる神さまですが、
しかし、古代インドでは今ほどの人気はありませんでした。
この神は、クリシュナやラーマ、はてはブッダなど、さまざまな神々を化身とすることによって、
急激に力を得て、インドの人々の間に不動の地位を確立してきたと考えられます。
とくに、ひたすら神に信愛を捧げるバクティ信仰と結びついたクリシュナを化身としたことで、
ヴィシュヌ神は飛躍的に勢力を伸ばしてきました。
ヴィシュヌ神は、世界が帰滅して次の世界創造が始まる前の長い空白の期間、
アナンタシェーシャという千の頭を持つ大蛇(中国では「龍」と訳される)の上で
横たわって眠り続けるとされています。
ヴィシュヌ神の像には、このアナンタシェーシャ龍が、たくさんの鎌首をもたげて
ヴィシュヌの頭の上に傘のように覆っている図像が多くあります。
このたくさんの蛇の鎌首を頭にいただいた姿は、ヴィシュヌ神を示す目印のようになっています。
さて、仏教の開祖ブッダも、またヴィシュヌ神のように、
蛇が鎌首をもたげて頭上を覆う姿で描かれることがあるのです。
とくに、東南アジアで見られるムチャリンダ・ブッダ像です。
仏教の開祖ゴータマは、さとりを開いた時、7×7、49日の間、解脱の楽に浸って瞑想を続けたとあります。
そのうち、第3回目の7日間の瞑想に入る時、ブッダはムチャリンダという樹木のもとに行くのです。
そして、そこで7日間瞑想に入って過ごします。
その木の穴に住んでいるムチャリンダ竜王(ナーガラージャ)というコブラの王さまは、
大雨と暴風からブッダを守るべく、7回とぐろを巻いて覆ったとされています。
9世紀以降、タイやカンボジアなど東南アジアには、ムチャリンダ竜王に守られるブッダの像が残されており、
それは、さながらアナンタシェーシャに守られるヴィシュヌ神のようでもあります。
インドの人々が信じてきたナーガ(コブラ)の信仰と、ヴィシュヌやブッダのような神仏が結びついて、
独特の神話的なモチーフがアジアに広まっている様子がうかがえます。
たくさんの神仏に守られている世界はいいですね。
私たちも、ヴィシュヌ神やブッダ、さらにはナーガ(コブラ)の力も借りて、
新しい年が良い年になることを願いたいものです。
この記事はヨガライフスクールインサッポロ機関紙 「未来」421号(2021年1月5日発行)に掲載された記事です。
著者 |
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略歴 ヨガライフスクールインサッポロ講師、北星学園大学、武蔵女子短期大学、その他多数の大学、専門学校にて非常勤講師として教鞭をとる。著書に『インド新論理学派の知識論―「マニカナ」の和訳と註解』(宮元啓一氏との共著、山喜房佛書林)、『ビックリ!インド人の頭の中―超論理思考を読む』(宮元啓一氏との共著、講談社)、『ブッダ論理学五つの難問』(講談社選書メチエ)、『龍樹造「方便心論」の研究』(山喜房佛書林)、『ブッダと龍樹の論理学―縁起と中道』(サンガ)、『ブッダの優しい論理学―縁起で学ぶ上手なコミュニケーション法』(サンガ新書)、『龍樹と、語れ!―「方便心論」の言語戦略』(大法輪閣)、『龍樹―あるように見えても「空」という』(佼成出版)がある。 |