正しい食と適宜の運動、そして明るい心こそが真の健康を築きあげます。ここでは、機関紙「未来」に掲載されたコラムを発信してまいります。

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信から智慧へ

     - インド哲学

「一年の計は元旦にあり」と言われます。
お正月は、新しい気持ちで何かを成し遂げようと計画を立てるには、ふさわしい時ですね。
さて、「今年は何をしようか」と、いろいろ思案中のみなさまもいらっしゃることでしょう。
計画を達成するために、インドの哲学から、何か役に立つ言葉を拾ってみましょう。
ちょうど良い言葉があります。仏教で五根といわれるもので、
これは、なんと『ヨーガ・スートラ』の中にも説かれています。
ヨーガ行者たちにとって、大きな助けになる重要なやり方なのです。どんなものか、見てみましょう。

『ヨーガ・スートラ』1.20に、無想三昧という
瞑想の境地を得るために役立つ五つのことが説かれています。
それは、信、精進、念、三昧、智という五つです。
まず、何事であれ成し遂げようとするとき、インドでは、多くの人は師を選んで、その人に就いて学びます。
その時、師から教えややり方などを学びますが、
それら教えなどに対して「信(シュラッダー)」をもたなくてはなりません。
「この先生は本当に実力をそなえているのかしら」とか「このやり方って大丈夫なの」などと
疑う気持ちがあるときは、どんなに優れた教えであってもうまく学んでいくことができません。
この「信」は、信仰というのとも、少し違っています。
ヴィヤーサという注釈者は、心を清らかにして澄んだ気持ちになることだと教えています。
このような浄らかな信は、お母さんのように、その人を支えて目的に向かって促してくれるのです。
浄らかな信が現れると、素直に教わったとおりに実践するので、その人に精進努力が生まれてきます。
精進して進んでいくと、念が起こってきます。
これは、仏教では「気づき」と言われ、ヨーガ学派では、「記憶」「想起」とも訳されます。
比べると、違うもののようですが、本当はそれほど変わりません。

人は、努力していくと、いろいろな微細なことに気づいていきます。
それを単に「気づく」ととらえるか、また、
潜在的に無意識の中に蓄えてあった細かな内容が現れてくるのだととらえるかの違いのように思います。
いずれにせよ、自身の中に、今まで知らなかったような意識が生じてどんどん気づいていきます。
そうなると、おのずと気づきに集中していきます。精神集中がどんどん深くなっていきます。
これが、三昧です。そして、精神集中が極まってくると、
最後に智慧、あるいは、真実の智があふれ出てくるのです。
このような経過をたどって達成していくのです。
信を大事にすると、次々と良い結果が得られていきそうですね。
今年も智慧豊かな一年でありますように。


この記事はヨガライフスクールインサッポロ機関紙 「未来」373号(2017年1月5日発行)に掲載された記事です。

著者
石飛 道子

略歴
札幌大谷大学特任教授。北星学園大学他、多数の大学・専門学校にて非常勤講師著書『ブッダと龍樹の論理学』ほか多数。

ヨガライフスクールインサッポロ講師、北星学園大学、武蔵女子短期大学、その他多数の大学、専門学校にて非常勤講師として教鞭をとる。著書に『インド新論理学派の知識論―「マニカナ」の和訳と註解』(宮元啓一氏との共著、山喜房佛書林)、『ビックリ!インド人の頭の中―超論理思考を読む』(宮元啓一氏との共著、講談社)、『ブッダ論理学五つの難問』(講談社選書メチエ)、『龍樹造「方便心論」の研究』(山喜房佛書林)、『ブッダと龍樹の論理学―縁起と中道』(サンガ)、『ブッダの優しい論理学―縁起で学ぶ上手なコミュニケーション法』(サンガ新書)、『龍樹と、語れ!―「方便心論」の言語戦略』(大法輪閣)、『龍樹―あるように見えても「空」という』(佼成出版)がある。