正しい食と適宜の運動、そして明るい心こそが真の健康を築きあげます。ここでは、機関紙「未来」に掲載されたコラムを発信してまいります。

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手の平の贈り物

     - インド哲学

『ヨーガスートラ』の作者パタンジャリについては、いつの時代の人か、どんな人物であったかなど、詳しいことは何も知られていません。インドでは、これは珍しいことではなく、哲学者や思想家はほとんど何も知られていないことが多いのです。

ですから、他にも、パタンジャリという名前が知られていると、同一人物とされることもよくあります。サンスクリット文法を確立したパーニニの文典に注釈を書いた人物も、また、パタンジャリとされていますので、『ヨーガ・スートラ』の作者と、文法の注釈書『マハーバーシャ』の作者は同一人物であった、ということも言われています。この他にも、パタンジャリは、薬学にも詳しく、この方面でも書物を著したと言われています。でも、正確なところは、よくわかっていないのです。

パタンジャリについては、これらにかかわるこんな伝説が伝わっています。

インドで有名な神様ヴィシュヌ神は、千の頭をもつアーディシェーシャ竜王という大きな蛇を乗り物としていて、かれの上に座っています。実は、パタンジャリは、このアーディシェーシャ竜王の化身とされるのです。

あるとき、ヴィシュヌ神は、シヴァ神の踊りを見ていました。ヴィシュヌ神は感動のあまり身体がリズムをとって、どんどん体重が重くなり、アーディシェーシャ竜王が限界に達したとき踊りは終わりました。それと同時に、ヴィシュヌ神の身体はもとの重さに戻ったのです

この出来事に驚いたアーディシェーシャ竜王は、自らもシヴァ神の踊りに感動して、かれにぜひ踊りを習いたいと思います。そして、誰のところに生まれようかと瞑想して、瞑想の中で、ゴーニカーという女性のヨーギンを見いだすのです。そして、かれの息子になろうと時を待ちます。

さて、ゴーニカーは、自分が亡くなる前に子どもがほしいと思い、太陽の神に祈りを捧げます。一掬いの水をすくって、目を閉じて、太陽に精神を集中したのです。そして、それを捧げようと眼を開いて、びっくり仰天、なんと小さな蛇が一匹、そこにいるではありませんか。それは、みるみる人間の形となりました。

こうして、かの女は、かれをパタンジャリと名づけました。「パタ」は「落ちること」、「アンジャリ」は「両手のくぼみ」で、一掬いの捧げ物ということです。

伝説では、やがてシヴァ神に命じられて、パタンジャリは『マハーバーシャ』を著し、アーユルヴェーダにも注釈し、そして、最後に『ヨーガ・スートラ』を著したとされています。


この記事はヨガライフスクールインサッポロ機関紙 「未来」325号(2013年1月5日発行)に掲載された記事です。

著者
石飛 道子

略歴
札幌大谷大学特任教授。北星学園大学他、多数の大学・専門学校にて非常勤講師著書『ブッダと龍樹の論理学』ほか多数。

ヨガライフスクールインサッポロ講師、北星学園大学、武蔵女子短期大学、その他多数の大学、専門学校にて非常勤講師として教鞭をとる。著書に『インド新論理学派の知識論―「マニカナ」の和訳と註解』(宮元啓一氏との共著、山喜房佛書林)、『ビックリ!インド人の頭の中―超論理思考を読む』(宮元啓一氏との共著、講談社)、『ブッダ論理学五つの難問』(講談社選書メチエ)、『龍樹造「方便心論」の研究』(山喜房佛書林)、『ブッダと龍樹の論理学―縁起と中道』(サンガ)、『ブッダの優しい論理学―縁起で学ぶ上手なコミュニケーション法』(サンガ新書)、『龍樹と、語れ!―「方便心論」の言語戦略』(大法輪閣)、『龍樹―あるように見えても「空」という』(佼成出版)がある。