筋肉と関節の動きの感覚:固有受容覚
固有受容覚とは聞き慣れない名前ですが、筋肉を使うときや関節の曲げ伸ばしによって生じる感覚です。感覚を感ずるセンサが身体の内部の深いところにあるので、深部感覚ともいわれます。触覚が外の世界からの刺激をうけとめるのに対して、固有受容覚は身体の内部からの情報を脳に伝えます。例えば、静かに立っているときでも、足の裏、膝、股関節などから体重のかけ方や力の入れ具合の情報が送られますし、重い物を持つときでも、どれくらいの力を出せばよいのか、引き延ばされた筋肉や腱から脳に情報が伝わります。このように固有受容覚は体の位置や姿勢に関する情報に関連があります。そのため、他の感覚とともに、身体の地図や運動をプログラムする能力の発達に大切な役割を果しているのです。
ところが、この感覚は脳の中でも意識的な自覚とはあまり関わりのない領域で処理されることが多いため、日頃の生活の中で私たちはほとんど気がつかずに過ごしてしまいます。しかし、固有受容覚の働きが低下していると、私たちの運動は今と比べて非常に遅く、ぎこちなくなるでしょう。今まですいすいやってきたことは、すべて見て確認しながらでないとやっていけません。これはとてもエネルギーのいることで、もし本当にそうなれば、私たちは1日に何回も休憩を挟まなければ、満足な仕事などできません。
固有受容覚の刺激は脳への重要な刺激となります。運動は筋肉や関節、循環を促すだけではないのです。事故で植物状態になってしまった人の関節を動かす治療には、こんな意味もあるのです。ゆっくりと確実に関節を動かすことは、非常に大きな刺激が脳へ入ることになります。運動した後、肉体的には疲労感があっても、心地よく頭がすっきりした経験があると思います。頭を使う仕事をする前の運動は、仕事の効率を上げることにもつながります。
この記事はヨガライフスクールインサッポロ機関紙 「未来」158号(1999年2月5日発行)に掲載された記事です。
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