正しい食と適宜の運動、そして明るい心こそが真の健康を築きあげます。ここでは、機関紙「未来」に掲載されたコラムを発信してまいります。

ヨガライフスクールインサッポロ 機関紙「未来」ウェブ

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ヨーガ初心者と長年の熟練者について

     - ヨガ

1980年代初頭、私は沖ヨーガ道場に招聘された
アイアンガー師の通訳兼アシスタントとして
ヨーガ講習会に出席した際、興味深い場面に立ち会いました。
200人近くの参加者を前にアイアンガー先生は開口一番、
グループを2つに分け、Aはヨーガ経験が数年以内の初心者のグループ、
Bを指導員或いは長年の熟練者のグループとし、
判断のつかない人は自己判断でどちらかに属しました。
A、Bの各グループの人々、初心者と熟練者が対面し
相対峙してお互いを見つめあいながら
立ちポーズのアーサナの実践が進められました。
しばらくしてからアイアンガー先生は参加者全員に
「A:初心者とB:熟練者でどちらのグループの人が
より良くヨーガが出来ていると思いますか」、と尋ねました。
Aの初心者の人々はほぼ全員がBの熟練者だと答え、
Bの人々も口には出さなくても内心では自分たちのほうが
よくできているという思いでいるように見受けられました。
大方の予測や期待に反しアイアンガー先生は
「私はA:初心者のグループの人々のほうが
よりよくヨーガをしているように見た」と答えました。

どうしてでしょう。Bの熟練者は長年ヨーガを実践してきて
外側の形やポーズには慣れていたとしても機械的な繰り返しに陥り、
その生気や深い興味を持ち続けるのを失してしまうことが多く、
それに対し初心者はまだアーサナに慣れていず外の形はうまく作れないとしても
新鮮な気持ちでヨーガを行うことでそこに新しい発見や喜びと驚きがあり
実践の場に生気があふれている、との見解でした。
これは現在の私たちにも通じることで、ヨーガの実践だけでなく、
生活し生きると全般に言えることではないでしょうか。
長年同じことを繰り返し如何に新鮮な気持ちをなくしてゆくのか。
そうなればヨーガの実践も毎日の生活もロボットや機械のように生気なく繰り返し、
ただ仕事上の義務感や習慣として惰性で流れてしまいます。
長年ヨーガを実践しながらもこのような惰性の繰り返しから抜け出ることはできるのか。
出来るとすればどのようにして。

ヨーガを続けてゆくことがお客様としての生徒数を増やし
利益を上げることが主な目的であれば興味の対象は知識や情報、
経験や技術を獲得することになり、そこでは人としての在り方は何も変わりません。
習慣化した生活の中での利害関係のみの関係性、
なれ合いの交流で飲酒や無駄なおしゃべりをする中では生命エネルギーを浪費してしまい
新鮮な気持ちで取り組む生気をなくしてしまうでしょう。


この記事はヨガライフスクールインサッポロ機関紙 「未来」406号(2019年10月5日発行)に掲載された記事です。

著者
吉田 つとむ
心と体のヨガ教室主宰

和歌山市出身、横浜市立大学卒業。パリ大学留学中にヨガと出合い、帰国後、沖ヨガ道場入所。沖正弘導師に師事。ヨガ指導に従事。インド・プーナのアイアンガー道場に通いアイアンガー師に師事。

略歴
・アイアンガーヨガ指導者として認証される。
・プーナの和尚ラジネーシ瞑想センターにて各種心理療法グループ研修後、和尚サニヤシン(出家者)となる。頭蓋仙骨療法(クラニオセイクラル・セラピー・バイオダイナミックス)トレーナー養成コース終了。
・ヴィパアサナ瞑想センターで瞑想修行。以降フェルデンクライス・メソッドの研修、気づきのレッスンとして応用指導に当たる。
・マイソールのアシュタンガ道場でパタビジョイス師に師事。
アシュタンガヨガ修行後、指導者として研修と指導に従事。

翻訳
ヨーガの樹

B.K.S.アイアンガー 著
吉田つとむ 翻訳
サンガ 2015/10/24