統合医療とは何だろうか? 第49回
- 統合医療
次のテーマは「周囲の人の支えを受け入れる」です。
人は一人では生きていけない存在であることは確かなことでしょう。大切な人がそばにいてくれるのとそうでないのでは、病気からの回復には違いが出るのは私の医師としての体験からも間違いのないことです。さらに最近の研究によると、愛されていると感じることで幸せホルモン(エンドルフィン、ドーパミン、オキシトシン、セロトニンなど)の分泌が増え、それによって免疫システムの働きが向上し、ひいては身体の治癒を促すのだとケリーは言っています。そして、人とのつながりを多く持つ人は、あまり持たない人よりも寿命が長く、がん罹患率も低いのです。さらに、他者とのつながりが深い人はがんの延命効果が高いことも明らかとなっており、その延命効果は25%増におよぶといわれています。つまり、他者からの愛や思いやりはがん患者を延命させるのです。
逆に、孤独感は人を死に至らせる可能性を50%高めるという研究があります。孤独を感じる人の血液と唾液の分析ではストレスホルモンのコルチゾールが増加しています。その結果免疫力が衰弱してがん細胞を除去する働きが弱まります。
ここまで書いてきて、私は当院の料理教室を担当してくださっていた村上朋子先生のことを思い出しました。残念ながら村上先生は病を得て今年の4月にお亡くなりになりましたが、彼女はクリニックの料理教室やイベントのあとで必ずがんの患者さんとハグをしていらっしゃいました。ハグのあとで、がん患者の皆さんは涙を流し、そして元気を取り戻したのでした。こうしてがんを克服された患者さんがたくさんいらっしゃいます。ケリーが言うように、人と人との身体のふれあいはやはり幸福ホルモンの分泌を促すのです。なかでも「抱きしめホルモン」と呼ばれるオキシトシンは炎症反応や痛みをやわらげ、血圧を下げ、コルチゾールの分泌を抑制して免疫機能を向上させます。1日たった10秒のハグが血圧を低下させ、コルチゾールを下げ、オキシトシンを増加させるというヒトでの研究があります。
人から愛されること、多くの友達を作ること、そしてハグをすること、がんに罹患した人はこういった行為を拒否するのではなく、自分から進んで、躊躇せずにその機会を、助けを求めてこれらを受け入れることががんから解放されることにつながると思います。
この記事はヨガライフスクールインサッポロ機関紙 「未来」368号(2016年8月5日発行)に掲載された記事です。
著者 |
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略歴 1982 年より自治医科大学放射線科で超音波を含む画像診断や、画像を用いておこなうがん治療(IVR)に従事。 1985年より札幌厚生病院消化器内科医長。消化器疾患の診断と内視鏡・IVR治療をおこなう。 1996年より札幌医科大学放射線科助手。消化器疾患の画像診断、がんの非手術的治療の研究に従事。1999年講師、2007年准教授。この間、イギリス王立マースデン病院、ドイツアーヘン大学、カナダカルガリー大学に出向。 認定資格 |