正しい食と適宜の運動、そして明るい心こそが真の健康を築きあげます。ここでは、機関紙「未来」に掲載されたコラムを発信してまいります。

ヨガライフスクールインサッポロ 機関紙「未来」ウェブ

*

バランスとスピード:前庭覚

前庭覚も聞き慣れない言葉かもしれません。バランスの感覚、重力やスピードの感覚といってもよいものです。空間の中で、自分の体がどこにあるのか、どちらの方向に向かって動いているのかを感じとる感覚でもあります。

前庭覚は耳の奥、内耳にある三半規管と耳石器で生じます。三半規管は主に、クルクル回ったり、でんぐり返しをとらえるものであり、耳石器は乗り物の急停車や赤ちゃんの「タカイタカイ」などのような動きをとらえます。

赤ちゃんが喜ぶ「タカイタカイ」は、地面と垂直の方向に強い前庭覚の刺激が生じるものです。これは目がぱっちりするスリルある刺激です。

不規則で強い揺れ、たとえば、ジェットコースターにのって眠くなる人はいないでしょうし、乗り物の急ブレーキには目を覚まされます。高いところからの飛び降りは、興奮する刺激です。

赤ちゃんや子どもの遊具・おもちゃには回転するものが多いです。公園や遊園地のメリーゴーランド、コーヒーカップやジェットコースターはその例です。バンジージャンプは最も強烈な刺激かもしれません。適度な強さの刺激は、興奮し活発な動きを伴います。ですから赤ちゃんは「タカイタカイ」が大好きです。

しかし、不規則で強い揺れが続くと、情報を処理しきれず頭痛や吐き気など自律神経を過剰に刺激し、乗り物酔いの症状が出ることになるので注意が必要です。目を覚ますための刺激としては、首をグルグル回すだけでも十分です。眠くなったときに首を回した覚えはありませんか。

一方、赤ちゃんを抱いてゆっくりしたリズムで揺すっていると、赤ちゃんはスヤスヤ心地よく眠ります。規則正しい小刻みな揺れは、大人の眠りも誘います。電車やバスで眠ってしまうのはこの刺激が入るためです。


この記事はヨガライフスクールインサッポロ機関紙 「未来」159号(1999年3月5日発行)に掲載された記事です。

著者
村田 和香
群馬パース大学保健科学部
北海道大学名誉教授
保健学博士

略歴
札幌市内の老人病院に作業療法士として勤務。その時に、病気や障害を抱えた高齢者の強さと逞しさを実感。以後、人生のまとめの時である老年期を研究対象とし、作業療法の臨床実践、教育・研究のテーマとしている。