正しい食と適宜の運動、そして明るい心こそが真の健康を築きあげます。ここでは、機関紙「未来」に掲載されたコラムを発信してまいります。

ヨガライフスクールインサッポロ 機関紙「未来」ウェブ

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歩く速度と脳の働き

まだ予備的研究ですが、中年期の歩行速度が将来の認知症の予測に使えるという報告がされています。アメリカの研究で、平均年齢62歳の2400例を対象として、歩行速度、握力、認知機能の検査を実施したものです。

最長11年の追跡調査の期間中に、34例が認知症、70例が脳卒中に発症したそうです。試験開始時に歩行速度の遅かった人は、早かった人に比べて認知症の発生する可能性が1・5倍高かった。開始時に握力が強かった65歳以上の人は、握力が弱かった人に比べて、脳卒中や一過性脳虚血発作の危険性が42%低かった。そういう結果が出たそうです。

また、歩行速度が遅いほど脳の容積が小さく、記憶・言語・意思決定の検査成績が劣っていた。握力が強いほど脳の容積が大きく、記憶の検査は優れていたそうです。

これらの結果は、まだ予備的な研究で、さらなる研究が必要です。ですが、高齢者の虚弱さや身体能力の低下が認知症の危険性の増大と関連しているのは、間違いないようです。

早く歩くためには、上半身の筋肉も使って、姿勢を維持する必要があります。有酸素運動を続けると、脳の神経細胞にも良い影響を与えるようです。

握力と寿命の関係は、日本の厚生労働省研究班の20年の追跡調査からも明らかになっています。適度な運動が全身の筋肉量を増やし、基礎代謝が上がり健康的な身体を作り、結果的には握力も強くなる。そんなところでしょうか。この握力は、道具を使うためにも必要です。瓶のふたを開ける、刃物を使いこなす、栓をひねるときに使います。使うものは筋力だけではなく、脳も使うということでしょう。生活が便利になると、握力は落ちる傾向があります。水道の蛇口をひねる握力がない女子中学生の話を聞いたことがあります。

春になったら、格好良くさっそうと歩きはじめませんか。億劫におもわずに、楽しく生活することが、結局は病気の予防や長生きにつながりそうです。


この記事はヨガライフスクールインサッポロ機関紙 「未来」315号(2012年3月5日発行)に掲載された記事です。

著者
村田 和香
群馬パース大学保健科学部
北海道大学名誉教授
保健学博士

略歴
札幌市内の老人病院に作業療法士として勤務。その時に、病気や障害を抱えた高齢者の強さと逞しさを実感。以後、人生のまとめの時である老年期を研究対象とし、作業療法の臨床実践、教育・研究のテーマとしている。