正しい食と適宜の運動、そして明るい心こそが真の健康を築きあげます。ここでは、機関紙「未来」に掲載されたコラムを発信してまいります。

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アンタ―カラナ(Antahkarana:内的器官、内的感覚、心、魂)

     - ヨガ

インドのヨーガ古典文献(ヨーガ・シャストラ)の一つにカター・ウパニシャッド(Kathā・Upanishadという「物語」があります。ウパニシャッドの内で最も古い古層に属するもので紀元前5世紀の成立と考えられています。これはまた「ヨーガ」や「サーンキャ」の思想を説明する最初のウパニシャッドでもあり、アディアートマ・ヨーガ(Adhyātma-yoga、内なる探究のヨーガ)の道を求めることを馬車に乗って進むことに例えた話は有名です。本来の自己(プルシャあるいはアートマン)は馬車の主、肉体は車両、知性(ブッディ)は御者、マインド(マナス)は手綱、感覚器官を馬とし、万有の内に内在する超越的存在(万有内在神論)を探求する道を説いています。

その「物語」(カター:Kathā)とは、少年ナチケータスが父の不興を買い、「死者の国」に行くことを命じられます。父の命を甘んじて受けたナチケータスは「死者の国」に赴き、その国の王ヤマ神(閻魔)に面会します。3日間飲食を絶ちヤマ神への面会に備えたナチケータスの内に純粋で真摯な特質を見たヤマ神は少年に3つの願いを叶えることを約束します。ナチケータス少年は3つの願いとして、1:父が自分への怒りを解くこと、2:天空界へ至る火の秘儀についての教え、3:死後肉体が滅しても存在するものがあるかどうか、死と不死についての秘儀の教え、この3つを叶えてくれるよう請願します。ヤマ神は2つについては快諾したものの、第三の願いに応えることに逡巡します。しかし純粋で真摯に真理を求めるナチケータスの決意は固く、これを見てヤマ神はその秘儀を少年に解き明かします。

我々の内奥に存する不死不滅の存在は親指の先ほどの大きさで、プルシャあるいはアートマンと言われ永遠に実在するもの、そこに至る道がアディアートマ・ヨーガ(内なる探究のヨーガ)であり、その方法がアンターカラナ(内的感覚)といわれるもの。

我々の欲望や5感覚器官は対象に向かって外に意識が流れてゆきますが、この意識を内に向けると我々の内には五感覚以外に様々な内的感覚があります。平衡感覚は三半規管の働きであり、空間に於ける位置や距離感覚は筋紡錘受容器と脳の総合判断であり、リズム・周期・時間感覚など他にも様々あります。私たちが行うヨーガの中心課題をブラフマ・スートラ(ブラフマの糸)と呼んでいますが、これは引力が働く垂直軸であり、全てのアーサナの基軸となっていて、これを感じ、気づくこともアンターカラナの一つです。

私たちの新しいヨーガのアプローチではこの中心軸に沿って律動的に流れる生命呼吸、プラーナ、ミッドタイド(中間波)、その他、生命の根源から流れてくるリズムなどの内的感覚に気づくことに進めてきました。

生命の根源に至ろうとするこれら私たちの新しいヨーガのアプローチはその本質ではカター・ウパニシャッドにも通じるものでヨーガの永遠不滅の本質・テーマが見えてくるように思われます。


この記事はヨガライフスクールインサッポロ機関紙 「未来」373号(2017年1月5日発行)に掲載された記事です。

著者
吉田 つとむ
心と体のヨガ教室主宰

和歌山市出身、横浜市立大学卒業。パリ大学留学中にヨガと出合い、帰国後、沖ヨガ道場入所。沖正弘導師に師事。ヨガ指導に従事。インド・プーナのアイアンガー道場に通いアイアンガー師に師事。

略歴
・アイアンガーヨガ指導者として認証される。
・プーナの和尚ラジネーシ瞑想センターにて各種心理療法グループ研修後、和尚サニヤシン(出家者)となる。頭蓋仙骨療法(クラニオセイクラル・セラピー・バイオダイナミックス)トレーナー養成コース終了。
・ヴィパアサナ瞑想センターで瞑想修行。以降フェルデンクライス・メソッドの研修、気づきのレッスンとして応用指導に当たる。
・マイソールのアシュタンガ道場でパタビジョイス師に師事。
アシュタンガヨガ修行後、指導者として研修と指導に従事。

翻訳
ヨーガの樹

B.K.S.アイアンガー 著
吉田つとむ 翻訳
サンガ 2015/10/24