ハマナス
潮かをる北の浜辺の
砂山のかの浜薔薇(はまなす)よ
今年も咲けるや
(石川啄木)
ハマナスは、北大の寮歌にもうたわれている北国の野バラですが、岩城之徳の「石川啄木」(短歌シリーズ・人と作品)によると、「この一首は作者が大森浜の海岸の砂山の陰に咲く浜なすの花に寄せて、函館追慕の情を述べたものである」とこの歌を解説しています。
日本の海岸の低木群落は、北日本のハマナスと南日本のハマゴウ(クマツヅラ科)が、勢力を二分しています。ハマナスのような見事な香りの高いバラが、海岸一面に生えている国は、日本のほかにはありません。
ハマナスの実は扁平球状で、直径二センチあまり、甘酸っぱい赤い実で、筆者の田舎では、この実を串刺しにして、盆の飾り物にしたものです。ビタミンC含有量が多く、そのまま食べたり、ジャムに加工します。
ハマナスは、野生のものほど、香りが強く、高級香水をはじめ高級白粉、ポマード、チック、オーデコロンなどに使われます。また、新鮮な花には収斂作用がありますし、下痢止め、月経過多に効くといわれています。
ハマナスは親潮に乗ってふえた海辺の花ですが、ときおり内陸でみかけるのは、鳥が種を運んだものだという人もいます。ですが千歳の馬追沼付近には、珍しく、かなりの野生のハマナスがあるといわれます。アイヌ語ではハマナスの実をマウといい、のちにマウに馬追の字が当てられたわけですが、これをみますと、昔からハマナスが、ここに自生していたのではないかと思われます。
ハマナスには、まれに白色のものがあります。白色ハマナスは、現在の東京都代々木に閑居していた新井白石(江戸中期の儒学者・政治家)が、庭内に植えて鑑賞したというふるい記録が残っています。生垣にも向きます。種をまいた年に花が咲くこともありますが、ふつうは三年で立派な木になります。
日高 一
この記事はヨガライフスクールインサッポロ機関紙 「未来」243号(2006年3月6日発行)に掲載された記事です。
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