ヨモギ
ヨモギは古い時代から山菜や医療用の薬草として、私たちと深く関わってきた植物です。種類が多く全道各地に繁殖していますが、普通にみられるのはエゾヨモギ(オオヨモギ)と呼ばれるもので、低い山にはオトコヨモギやイヌヨモギ、高い山にはサマヨモギ、海岸に行くと真っ白い毛に覆われたシロヨモギ(北海道山菜誌・北大図書刊行会)などがあって、ざっと数えても道内には二十種類くらいあります。世界中のヨモギの仲間は約二五〇種類です。
ヨモギはよく茂った夏に刈り取り、葉を乾燥してもむか、あるいは臼でついてくだき、粉末を除くと、葉裏の綿毛だけが残ります。この綿毛を集めて灸の艾(モグサ)にします。昔は矢立の墨つぼ、大工道具の墨つぼなどに、墨を含ませて用いたものです。また、印鑑に用いられる朱肉は、モグサを天然の朱(鉱物性生薬で、丹砂、朱砂、辰紗などと呼ばれる天然の硫化水銀)で染め、ヒマシ油でねばりをつけたものです。
ヨモギの若芽や葉に小麦粉のころもをつけて、手早く揚げたものは苦味がうすれて、味と香りが楽しめます。天ぷらのほか、ひたし物、汁の実、ゴマあえ、クルミあえ、ごまみそあえ、ヨモギ餅などにします。三月三日に食べる草餅は、ヨモギが邪気を払い、これを食べると寿命が延びるという思想から起こった習慣です。
ヨモギの葉にはセスキテルピン、セスキテルピンアルコール、シネオールなどの成分がありますので風邪や神経痛、リウマチ、疲労回復、鎮痛剤、痔、子宮出血などに用いられてきました。なかでも強い香りをもつニガヨモギは、ローマ時代から、婦人薬の民間薬として栽培されていたものです。
ヨーロッパでは洋酒のアブサンやベルモットの味付けに使われ、フランス料理のカタツムリのたれにはヨモギの一種のドラゴン草の酢漬けは欠かせないものになっています。
風吹いて持つ手に
あまる蓬かな
水原秋桜子
日高 一
この記事はヨガライフスクールインサッポロ機関紙 「未来」245号(2006年5月6日発行)に掲載された記事です。
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