うどん(饂飩)
奈良時代に渡来した唐菓子の一つに「混沌(こんとん)」というものがあります。これは小麦粉の皮に餡(肉や糖蜜など)を包んで煮たもの(丸いワンタンのようなもの)で、丸めた団子はくるくるして端がないから「こんとん」とよばれました。食べものなので、平仮名を食扁にあらためて「餛飩」と書いたのですが、熱い食べものなので「温飩」と書くようになり、これが、また食扁に変って「饂飩」となります。
室町時時代になるとウドンという呼び名が一般的になりますが、「うどんに胡椒」といわれて、昔は、食べるときに胡椒の粉、または梅干がかならず添えられてあったものです。
いま地球上で栽培している主な穀物は、米、ムギ、トウモロコシで、穀類生産の八〇%を占めています。コムギはイネ科に属する一年生草本ですが、原産地は、中央アジアの高原地帯です。コムギの栽培は、一万年前の石器時代に遡るといわれ、有史以前の数々の遺跡からコムギの種粒が出土しています。日本へは、四~五世紀(弥生時代)頃に、ダイズやアズキと一緒に、中国から朝鮮半島を経て伝えられました。
いまでは、日本中、何処へいっても美味しいうどんが食べられますが、なかでも三陸地方の人たちは「初ものを食べると七五日寿命がのびる」と伝えられていて、お盆前になると、とれたてのコムギを家で粉にひいて食べるのが習慣になっているそうです。
地方によってだし汁も様々ですが、何年か前、大阪の講演の帰り、京都の食堂でうどんを注文したところ、ご一緒した上山祐雅子先生は、東京育ちとあって、出てきたのを見て、びっくりしていました。底まで見透かせるほどの薄色の汁。しかし、薄味かといえばそうでもなく、けっこう濃い味で美味。
「特にうどんは松倉では珍しい来客のあった時〈メンボがおどる〉と言って特にふるまう大御馳走だった。金ケ崎でのあまりにすさまじかった激戦のあとだけに、うどんを口に入れた時、その味がいとおしく(よう生き伸びた・・・)という切実な感慨が胸にこみあげた。[遠藤周作・男の一生 上]
この記事はヨガライフスクールインサッポロ機関紙 「未来」261号(2007年9月5日発行)に掲載された記事です。
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