サンマ
サンマといえば、落語の「目黒のサンマ」は忘れられません。
いまさら説明するまでもありませんが、徳川幕府華やかなりし頃、
将軍が夕方狩にでかけ、その帰りに目黒の茶店で食べたサンマの塩焼きが
美味しかったという話です。
現在のサンマ漁は、8月中旬の解禁と同時に、北海道・釧路を基地に北洋で始まり、
順次、魚群の移動とともに、三陸沖、房州沖、熊野沖と南下していきますが、
房州沖でとれたものが一番美味といわれています。
北の海で食べた脂の豊富なプランクトンの養分が、房州沖に達する頃、サンマの全身に回って、
産卵の準備も完璧になるので、ちょうどその頃が最高の旬の味となっているというわけです。
サンマのうまみは脂質の含有量が左右します。
脂質の少ない8~9月のものは刺身や寿司だねに向く。
10月になると脂質の含有量が20%以上になりますので、この時期の塩焼きはうまい。
ことに、この脂の処理が旬の味を左右するわけですから、まず、熱く焼いて、
冷めないうちに食べ、脂の舌触りが滑らかなうちに賞味すると同時に、
脂が舌に残らないようにすることです。大根おろしを添えますと、
ほろ苦いはらわた(胆のう)の強い味と、脂の触りを弱めて、フレッシュに味覚を整えてくれます。
しかし紀州出身の佐藤春夫が
「秋刀魚 秋刀魚 そが上に青き蜜柑の酸をしたたらせてさんまを食うは その男のふる里のならいなり」
と詠んだように、一般にはサンマはやはり塩焼きにして、
柑橘類をかけて食べるのが、一番うまいのかもしれません。
サンマにはエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)などの、
動脈硬化、心筋梗塞、高血圧を防ぐ不飽和脂肪酸がたくさん含まれている上、
タンパク価は96で青魚のなかでは最高ですから、
体の中でタンパク質が効率よく利用されます。牛肉、豚肉、鶏肉を凌ぎます。
また、ビタミンE、ビタミンA、ビタミンB12、ナイアシン、カルシウムなども多く、
理想的な栄養バランスを持っていますし、しかもうまくて、
値段も安く、文字通り三拍子揃った庶民の味方の魚です。
さんま焼くけむりのなかの一人かな 万太郎
この記事はヨガライフスクールインサッポロ機関紙 「未来」202号(2002年10月5日発行)に掲載された記事です。
著者 |
|
略歴 |