正しい食と適宜の運動、そして明るい心こそが真の健康を築きあげます。ここでは、機関紙「未来」に掲載されたコラムを発信してまいります。

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統合医療とは何だろうか?第4回

     - 統合医療

これまでがんの治療を例にとって統合医療とはどういうものかお話をしてきました。その中で私が強調したかったことは、人は体と心を切り離しては決して存在できないということでした。

今回は、この体と心は切り離すことができないという観点から統合医療を考えてみましょう。そのために、まずは日本で一般的な医療、即ち西洋医学的医療とはどういうものか見ておきたいと思います。

西洋医学とは、科学に基づいた医学であるといえます。科学の特長を一言で言えば客観的に数量化できるものだけを対象とするということです。例えば心臓の働きを脈拍や血圧で測定したり(実際にはもっと高度な機器を使用して心臓の動きや血液の流れを定量したりしますが)、スパイロメーターを使って呼吸機能を計ったりすることがそれに当たります。このことは、いわば人間を機械と同じように扱うことで成り立っているとも言えます。すなわち、人間機械論です。この思想に立つことで臓器移植という発想も出てきます。心臓や肝臓、腎臓などの臓器が機能障害になれば、車や時計の故障の時に故障したパーツを取り替えて修理するのと同様に、別の人間の臓器と入れ替えれば良いわけです。

それでは、心や感情といった人間の働きは西洋医学ではどのように扱うのでしょうか?賢明な皆さんはもうおわかりでしょうが、心の働きなどは定量化できませんので西洋医学が扱うことは極めて難しいのです。つまり、乳癌を例に取ると、がんが画像で診断できればそれに応じて手術や放射線治療が選択され、その治療が終われば全ては終了となり、片方の乳房を失った人間の悲しみやがんの告知を受けて頭の中が真っ白になっている患者さんの気持ちなどはどこかに行ってしまうのが西洋医学ということになるでしょう。

私どものクリニックには、手術・放射線・抗がん剤という西洋医学の3大治療を受けてもがんがよくならないと、あとはできることはないから好きなところに行ってくれと言われて途方に暮れる進行がんの患者さんが多数お出でになります。この方がたの前医でのお話を伺っていると、私は時々言いようのない悲しみに襲われます。西洋医学とはつまるところ人間を臓器の集まりとしてしか捉えておらず、医師はがんを持った人間ではなく、がんを有した臓器にしか興味がないのではないかと思われるのです。


この記事はヨガライフスクールインサッポロ機関紙 「未来」298号(2010年10月5日発行)に掲載された記事です。

著者
小井戸 一光
癒しの森内科・消化器内科クリニック 院長

癒しの森内科・消化器内科クリニック

略歴
1977年、北海道大学医学部卒業。北大第3内科入局、臨床研修を受ける。

1982 年より自治医科大学放射線科で超音波を含む画像診断や、画像を用いておこなうがん治療(IVR)に従事。

1985年より札幌厚生病院消化器内科医長。消化器疾患の診断と内視鏡・IVR治療をおこなう。

1996年より札幌医科大学放射線科助手。消化器疾患の画像診断、がんの非手術的治療の研究に従事。1999年講師、2007年准教授。この間、イギリス王立マースデン病院、ドイツアーヘン大学、カナダカルガリー大学に出向。

認定資格
日本内科学会認定内科医、日本消化器病学会専門医、日本内視鏡学会専門医・指導医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医、日本超音波学会専門医・指導医、医学博士