バガヴァッドギーター(3)
- インド哲学
カウラヴァとパーンダヴァ
前回は、王族の血筋が途絶えそうになるところ、ヴィヤーサという聖仙から子種をもらって、
二人の寡婦となった王妃たちが子どもをもうけるというところまでお話ししました。
では、早速続きをお話ししましょう。
こうして、ヴィヤーサと寡婦たちとの間には、二人の息子、
盲目のドゥリタラーシュトラとパーンドゥが生まれ、かれらは、長じて、王家を継いで行きます。
ドゥリタラーシュトラは盲目であったため、かれに代わり、パーンドゥがまず王となります。
さて、そのパーンドゥですが、かれは、鹿の姿で妻と交わっていた隠者を鹿と思って射てしまい、
そのためその隠者から「お前も妻と交わるとき死ぬだろう」との呪いを受けます。
こうして、パーンドゥもまた自分の血を分けた息子をもうけることができなくなり、
神々を呼び出して自分の妻たちとの間に五人の王子をもうけることになるのです。
そして、また呪いのことばどおり、妻と交わろうとしてかれは亡くなるのです。
一方、盲目の王ドゥリタラーシュトラには、100人の王子たちがいます。
パーンドゥの5人の王子たちは、ドゥリタラーシュトラの百王子と共に育てられますが、
あらゆる点で百王子の能力を凌駕していたので、
特に、百王子たちの長子ドゥルヨーダナはかれらに敵意を抱き、かれらと敵対していくようになるのです。
百王子(カウラヴァ)と五王子(パーンダヴァ)
ドゥリタラーシュトラは、五王子に王国の半分を分け、五王子たちはそこに宮殿を建てて統治します。
が、ドゥルヨーダナの策略により、五王子の長子ユディシュティラは賭博で負けて、
王国と全財産を奪われます。 ユディシュティラは自分を賭け、弟たちを賭け、
最後に五王子共通の妻ドラウパディーを賭けて、すべて奪われてしまうのです。
一度は、年老いたドゥリタラーシュトラ王が、かれらの王国と財産を返すのですが、
これに不満を持ったドゥルヨーダナたちは再度賭博を持ちかけ、敗者は12年間森で暮らし、
13年目は人に知られぬように生活しなければならないという条件をつけるのです。
そして、またもや賭博に負けたパーンドゥの息子達(パーンダヴァ)は森で亡命生活をし、
13年目はヴィラータ王の宮殿で人知れず働くことになったのです。
五王子たちパーンダヴァは、約束どおり13年間のすべての条件を完了して、
王国の半分を返還するようにせまります。
しかし、ドゥルヨーダナら、クル一族(カウラヴァ)は、それを拒絶し、両者は完全に決裂してしまいます。
この後、両軍の間で壮絶な戦いが18日間にわたって繰り広げられることになります。
その戦争前夜、親族同士の争いを嘆くパーンダヴァの勇者アルジュナ王子と、
戦車の御者でヴィシュヌの化身であるクリシュナとの対話を取り上げたのが、
これからお話ししていく『バガヴァッドギーター』なのです。
『バガヴァッドギーター』の舞台背景は整いました。
次回は、いよいよ哲学的な議論に入っていくことにしましょう。
この記事はヨガライフスクールインサッポロ機関紙 「未来」418号(2020年10月5日発行)に掲載された記事です。
著者 |
|
略歴 ヨガライフスクールインサッポロ講師、北星学園大学、武蔵女子短期大学、その他多数の大学、専門学校にて非常勤講師として教鞭をとる。著書に『インド新論理学派の知識論―「マニカナ」の和訳と註解』(宮元啓一氏との共著、山喜房佛書林)、『ビックリ!インド人の頭の中―超論理思考を読む』(宮元啓一氏との共著、講談社)、『ブッダ論理学五つの難問』(講談社選書メチエ)、『龍樹造「方便心論」の研究』(山喜房佛書林)、『ブッダと龍樹の論理学―縁起と中道』(サンガ)、『ブッダの優しい論理学―縁起で学ぶ上手なコミュニケーション法』(サンガ新書)、『龍樹と、語れ!―「方便心論」の言語戦略』(大法輪閣)、『龍樹―あるように見えても「空」という』(佼成出版)がある。 |