サンスクリット語の魅力2
- インド哲学
ヨーガの神さまとして有名なシヴァ神は、その起源を辿りますと、
インド最古と言われる『リグ・ヴェーダ』の中に説かれる、ルドラという神にさかのぼります。
ルドラは、暴風雨の神として知られ、人間にとっては
災害・洪水などをもたらす破壊の神として恐れられてきました。
その一方で、暴風雨のあとに植物の生育を促し薬草などの恵みをもたらしてくれるので、
医薬の神としても称えられたのです。
シヴァという名は、破壊の神ルドラの吉祥な面を表しますが、
この神は、すさまじい破壊力をもつ強い神として人々に恐れられつつ、
また、恩恵をもたらす神としても親しまれて、
やがてヴィシュヌ神と並んで神々の頂点に立つようになります。
シヴァ神は、破壊を特徴とするためか、アスラ(悪魔)に含められます。
かれは、インド土着の風習ともよくなじんで、行者の姿で描かれることが多いのです。
青黒い肌に、もつれた髪を束ねて、首や腕にはヘビや数珠を巻き付け、
腰は獣の皮で覆い、三叉の戟をもって、いかにも行者然としています。
かれは、ヨーガ瞑想の達人でもあります。
シヴァ神の持ち物の中で、数珠は、インドの言葉でアクシャ・マーラーと呼ばれます。
アクシャとは、この場合、植物の名で、マーラーは輪という意味です。
いつも数珠を身につけているシヴァ神は、
別名アクシャ・マーリン(数珠をもつ者)とも呼ばれています。
さて、この数珠の材料にする菩提樹の種は、面白いことに、
ルドラークシャ(ルドラの目、また、ルドラの涙)と呼ばれています。
ルドラとアクシャからなる合成語で、この場合のアクシャは、「目」という意味です。
また、「ルドラの涙」とも言われるのは、古い伝説によるのです。
昔、シヴァ神とその神姫パールヴァティーは数千年もの間瞑想をし続けました。
瞑想の後目を開いたとき、シヴァの目から涙が数滴地上に落ちて、
そこから樹木が生えてきたので、その木をルドラークシャと呼ぶようになったというものです。
ヒンドゥー教シヴァ派の人々にとっては、
このルドラークシャの数珠をつまぐりながら、マントラを唱えることが伝統となっています。
この記事はヨガライフスクールインサッポロ機関紙 「未来」385号(2018年1月5日発行)に掲載された記事です。
著者 |
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略歴 ヨガライフスクールインサッポロ講師、北星学園大学、武蔵女子短期大学、その他多数の大学、専門学校にて非常勤講師として教鞭をとる。著書に『インド新論理学派の知識論―「マニカナ」の和訳と註解』(宮元啓一氏との共著、山喜房佛書林)、『ビックリ!インド人の頭の中―超論理思考を読む』(宮元啓一氏との共著、講談社)、『ブッダ論理学五つの難問』(講談社選書メチエ)、『龍樹造「方便心論」の研究』(山喜房佛書林)、『ブッダと龍樹の論理学―縁起と中道』(サンガ)、『ブッダの優しい論理学―縁起で学ぶ上手なコミュニケーション法』(サンガ新書)、『龍樹と、語れ!―「方便心論」の言語戦略』(大法輪閣)、『龍樹―あるように見えても「空」という』(佼成出版)がある。 |