正しい食と適宜の運動、そして明るい心こそが真の健康を築きあげます。ここでは、機関紙「未来」に掲載されたコラムを発信してまいります。

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聞こえにくさと認知症

見えにくい、聞こえにくい、物忘れがひどい、と感じるとき、年を自覚することが多いです。聞こえにくいとコミュニケーションがとりにくくなります。特に、高い声で早口で話されたり、語尾がはっきりしなかったりすると、聞き取ることができません。会話がうまくつながらないと、聞き直すのが面倒になり、会話をしなくなったり、ひどいときには閉じこもりになったりすることだって、珍しくはありません。

最近の研究では、中年以降の難聴により高齢期に認知症リスクが2倍上昇するというデータがあります。その一方で、補聴器を適切に使うことで、認知症の発症リスクが軽減するという報告もあります。聞こえないことをあなどってはいけません。さらに、難聴のある患者さんには、物忘れの自覚や不安感、焦燥などの精神的な症状を感じる割合が多く、抑うつ気分がある患者さんも多いという結果が出されています。

難聴と認知症の関係は、次のように考えられています。

耳から入ってくる情報は電気信号に変換して脳に送られます。誰かと話をしているときは、声を処理し言葉として受け取とめます。音楽を聴くときは、空気の振動をメロディとして受け止め、心地良さを感じます。耳と脳はこのような音の処理を、24時間ずっと音を取り込み脳に信号を送り、脳もまた休むことなくそれを処理し続けています。耳からの情報は、刺激になり脳は活発に働き、活力を保っているのです。ところが、難聴になると、耳から脳に伝達される情報量は極端に少なくなります。脳の各部位はつながっているので、音声を処理するところが働かないと、他の部分も影響を受けます。そうなると神経細胞の働きが落ち、脳が委縮していくのです。

また、人とのつながりを避けることも孤立につながるため、これもまた認知症になりやすくなるという訳です。

かっこいい補聴器をさっそうとつけることが、認知症予防につながる理由です。


この記事はヨガライフスクールインサッポロ機関紙 「未来」436号(2022年4月5日発行)に掲載された記事です。

著者
村田 和香
群馬パース大学保健科学部
北海道大学名誉教授
保健学博士

略歴
札幌市内の老人病院に作業療法士として勤務。その時に、病気や障害を抱えた高齢者の強さと逞しさを実感。以後、人生のまとめの時である老年期を研究対象とし、作業療法の臨床実践、教育・研究のテーマとしている。