正しい食と適宜の運動、そして明るい心こそが真の健康を築きあげます。ここでは、機関紙「未来」に掲載されたコラムを発信してまいります。

ヨガライフスクールインサッポロ 機関紙「未来」ウェブ

*

60歳からの人生

ある週刊誌に「人生は六十歳から始まる 準備と実践編」という特集がありました。同時に「いい有料老人ホームベスト一五〇」というのも掲載されていました。六十歳で人生が始まるというのは、これまでの人生をどう考えるのか少し悩みましたが、確かに定年前後では生活は大きく変わります。定年後は仕事の肩書を気にせずに、あるいは頼らずに、じっくり自分を考える機会であることは間違いないようです。

六十歳からゆとりのある生活を送るためには、お金の心配もしなければなりません。いろいろ試算がされていますが、最低生活費は夫婦二人暮らしで二十万円程度と言われています。国民健康保険や住民税に自動車税も大きな出費となります。けれど、「六十歳から始まる」のためには、人生の四分の一を占める時間で旅行もしたい、趣味も楽しみたい、孫にはお小遣いをあげたい、外食もしたい、車も必要、になってくる。そうなると、年金は実際のところいくらもらえるのかが気になります。正確な年金額は、五十歳を過ぎれば社会保険事務所の相談窓口でシュミレーションしてもらえます。

また、六十代、七十代、八十代での必要なものが違ってきます。六十代では趣味に加えて、親の介護に関連するもの、たとえばリフォーム費用も意外とかかるもの。ライフスタイルにあわせて、保険や個人年金も考える必要がありそうです。

老年期を生きることは、どこかに到達するということではなく、延々と老い続けることであり、その結果が長寿です。今日の日は昨日とそう変るものではありませんが、違うとするならば、毎日の時の中に無数の瞬間が堆積しているという点でしょう。そして積み重なった層が経験として生きるために、老いの一瞬は若い時と比べものにならないほど豊かなものであるはずです。人生の中で、大きくて、広く、深い領域へと進む可能性を秘めているのだと思います。そうすると、「六十歳から始まる」のは間違いないのかもしれません。


この記事はヨガライフスクールインサッポロ機関紙 「未来」292号(2010年4月5日発行)に掲載された記事です。

著者
村田 和香
群馬パース大学保健科学部
北海道大学名誉教授
保健学博士

略歴
札幌市内の老人病院に作業療法士として勤務。その時に、病気や障害を抱えた高齢者の強さと逞しさを実感。以後、人生のまとめの時である老年期を研究対象とし、作業療法の臨床実践、教育・研究のテーマとしている。