ムカゴ
ムカゴのことをヌカゴともいいます。ヤマノイモなどの葉腋(葉が茎と接続している部分・葉の付け根)に生じる指先くらいの大きさの丸い珠芽で、薄褐色のもの、緑褐色のもの、ネズミ色のものなど、いろいろです。
ヤマノイモ科はつる性で花は緑色や黄色で地味で小さく、あまり目立ちませんが、この科は世界に六属、約七五〇種あります。そのうち大部分の六〇〇種は地下茎や塊根をもっているつる性の草本です。
店頭にある「いちょういも」「つくねいも」「ながいも」「いちねんいも」は、ナガイモといわれ、栽培品種です。このナガイモに対し、ヤマノイモは、山野に自生しているもので、〝ヤマイモ〟とか〝自然薯(じねんじょ)〟と呼んでいます。ヤマノイモは中国や日本に野生し、古くから山薬といわれて、正月の松の内に食べると中風にかからないと俗信されてきたものです。
ムカゴ拾いは、山村の子供たちの楽しみの一つでもありました。落ちこぼれたムカゴが、一人前のじねんじょになるまでには、少なくとも四、五年はかかります。じねんじょはアクが強く、おろしているはしから、どんどん黒ずんでいきます。出来上がったトロロはネズミ色です。そのうえ腰が強く、少々泥くささがありますが、素朴な自然の山の味です。じねんじょの本来の味は、三年ものにあるといわれています。鹿児島の代表的な郷土菓子である軽羹(かるかん)の原料は、じねんじょの三年ものの最高品を使っているそうです。
ヤマノイモには消化酵素がありますので新陳代謝を活発にして、体を整えます。肺の働きをよくして、長引く咳を改善するほか、腎臓の機能や生殖機能、多量のおりもの、頻尿の改善、糖尿病にも効果があるといわれています。
毎年、その季節になると拙宅の狭庭の片隅で、じねんじょの細いつるが木の枝にからみついて、数メートルの長さに伸びます。七、八月ごろ花が咲き、葉の付け根に一個ずつムカゴがつきます。十月の月次祭には、ムカゴご飯を食べるのが拙宅の習わしになっています。
おとのして夜風のこぼす
零余子(ムカゴ)かな
飯田蛇笏
日高 一
この記事はヨガライフスクールインサッポロ機関紙 「未来」249号(2006年9月5日発行)に掲載された記事です。
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