統合医療とは何だろうか? 第26回
- 統合医療
前回に引き続き、腸内細菌のお話をしたいと思いますが、今回は腸内細菌とうつ病のお話です。
腸内細菌がどうしてうつ病に関係しているのか、不思議に思われる方も多いことと思います。
うつ病になる主な原因は、強いショックやストレスにより、
脳内の神経伝達物質の働きが低下することにあります。この神経伝達物質のひとつがセロトニンです。
心を平常心に保つ上で、重要な役割を果たしているセロトニンの働きが衰えると、
うつ病になってしまうのです。
セロトニンは必須アミノ酸のトリプトファンから作られます。
しかし、トリプトファンを食物からたくさん摂取してもセロトニンは増えません。
それは、脳内にセロトニンの前駆物質を送る働きをするのが腸内細菌だからです。
さらにセロトニンの合成に必要なビタミンB6、ナイアシン、葉酸などを
合成しているのも腸内細菌なのです。従って、腸内細菌の働きが不良だと
脳内の神経伝達物質であるセロトニン濃度は低下し、結果としてうつ病になるわけです。
寄生虫学や感染免疫学がご専門の藤田紘一郎先生によれば、
自殺率が世界で最も低いメキシコでは食物繊維が世界で最も大量に食べられているそうです。
以前お話したことですが、平成21年における日本の自殺率(人口10万人あたりの自殺者数)は
25.8人で総自殺者数は3万2845人、12年連続で3万人を突破しています。
そして人口10万人あたりの自殺者数でいうと、日本は世界の中で第5位に位置します。
興味深いことに、1950年代から日本の食物繊維摂取量が減少するにつれて、
日本ではうつ病患者数が急激に増加しているのです。
もうおわかりかと思いますが、腸内細菌のエサになる食物繊維の摂取量が少ないとうつ病が増えるのです。
GDP世界第3位の日本人は確かにお金持ちになったのかもしれません。
しかし、日本よりはるかに少ないGDPしか有しないメキシコ人に比べて、
果たして日本人は幸せなのでしょうか?
この記事はヨガライフスクールインサッポロ機関紙 「未来」329号(2013年5月7日発行)に掲載された記事です。
著者 |
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略歴 1982 年より自治医科大学放射線科で超音波を含む画像診断や、画像を用いておこなうがん治療(IVR)に従事。 1985年より札幌厚生病院消化器内科医長。消化器疾患の診断と内視鏡・IVR治療をおこなう。 1996年より札幌医科大学放射線科助手。消化器疾患の画像診断、がんの非手術的治療の研究に従事。1999年講師、2007年准教授。この間、イギリス王立マースデン病院、ドイツアーヘン大学、カナダカルガリー大学に出向。 認定資格 |