正しい食と適宜の運動、そして明るい心こそが真の健康を築きあげます。ここでは、機関紙「未来」に掲載されたコラムを発信してまいります。

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触れる、握る、抱しめる:触覚

 皮膚で感じるものが触覚です。触覚は生物にとって危険を知る重要な手段でした。足をおろす場所が安定しているかどうかを知るために、口に含んだものが食べられるものかどうかなど判断するためで、生存に関る情報を伝える大切な感覚で、今でもそのために使われています。動物が手を使うようになって触覚はさらに進歩し、物に触って確かめる触知覚や物を操作することから細かな作業をする指先が発達しました。ですから、指先と舌先の感覚は特に敏感です。この触覚情報が欠けてしまうと、うまく体を使うことができなくなります。たとえば、しびれた足で立ちあがれなかったり、アイスキャンディーを食べた後に呂律が怪しくなったり、ゴム手袋をつけて細かな作業ができないなどの経験をお持ちでしょう。

この触覚は大きく2つに分けることができます。ひとつは軽い触刺激で、これは一般に危険信号として脳につながり、覚醒的に働くものです。満員電車の中で隣の人の髪の毛が顔にかかる、腕に虫がはってむずむずする、ざわっとする、鳥肌の立つ感触。これらは軽い触覚刺激です。脇の下や足の裏のくすぐったい感じやむずがゆさはこの変形パターンになります。

  もうひとつは触圧刺激で、マッサージや背中をさすることなどの刺激がこれにあたり、触覚的なものの区別や鎮静効果をもたらすとされているものです。ぎゅっと抱しめられたときの心地よさは、赤ちゃんのときから大人になっても変りません。人をなぐさめるときには、背中をさすったり、やさしくたたいたりします。覚醒水準を沈静化させることをねらっているわけです。

ですから、触覚は人間の情緒と深い関係にあるといえます。心地よい触覚は安心感を与え、情緒の安定につながるのです。発達中の子どもにとって、私たちが考えている以上に大切な感覚です。スキンシップの重要性が触覚の視点からも理解できると思います


この記事はヨガライフスクールインサッポロ機関紙 「未来」156号(1998年12月5日発行)に掲載された記事です。

著者
村田 和香
北海道大学 大学院保健科学研究院 生活機能学分野 教授
保健学博士

略歴
札幌市内の老人病院に作業療法士として勤務。その時に、病気や障害を抱えた高齢者の強さと逞しさを実感。以後、人生のまとめの時である老年期を研究対象とし、作業療法の臨床実践、教育・研究のテーマとしている。