正しい食と適宜の運動、そして明るい心こそが真の健康を築きあげます。ここでは、機関紙「未来」に掲載されたコラムを発信してまいります。

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統合医療とは何だろうか?第32回

     - 統合医療

さて、これまでわたしたちが健康に生活をしていくための免疫の重要性をお話ししてきました。
ただし、免疫はそれ単独でわたしたちの健康維持をおこなっているわけではありません。
実は免疫系に加えて、神経系と内分泌系とが相互に関連しあって
わたしたちの生体調整をおこなっているのです。
この3者の共同作業によって生体の恒常性(これをホメオスタシスといいます)が保たれています。
今回からはこれらの共同作業に焦点をあてて、
わたしたちの体と心は切っても切れない関係にあることをお話ししたいと思います。

皆さんは、例えば試験前や人前でスピーチをしなければならない時など、
動悸がしたり、肩がこったりすることがありませんか?
また、なにか強いストレスがあると眠れなくなったり、
食欲がおちたりする方もいらっしゃることでしょう。
これは緊張したりストレスを感じたりすると、
自律神経のうち交感神経が過緊張となって神経細胞からアドレナリンやノルアドレナリンという
化学伝達物質が分泌されて、その結果、血圧が上昇したり、心拍数が増加したり、
あるいは胃腸の働きが低下しておこる症状です。
つまり、心の働きが神経に作用して、そこからさまざまな症状がおこってくるわけです。
このように、心の働きと神経の働きは密接に結びついているのです。
以上のことは、この連載の第2回から10回にかけて既にお話をしています。
しかし、その時には主に神経系と内分泌系の関係をお話ししたのですが、
今回はこれに免疫系を加えて、これら3者の相互作用をお話ししようと思います。

まずは神経と免疫の関係です。
ひとつ面白いエピソードをご紹介しましょう(神庭重信著、「こころと体の対話」より引用)。
アメリカでの話です。ある耳鼻科を訪ねた女性はバラの花による花粉症に悩んでいました。
同時に興奮したときや、過労などでも鼻炎が起こっていたとのことで、
耳鼻科医は彼女の鼻腔内粘膜を焼灼したところ、症状は劇的に改善しましたが、
バラの花を見たときだけは必ず症状が出現するというのです。
そこで耳鼻科医は人工のバラの花を作り患者に見せたところ、
彼女はたちどころに鼻汁や涙が出て、軽い呼吸困難を起こしました。
つまり彼女の花粉症の症状はバラの花粉が原因ではなく、
「バラの花を見ると花粉症が起こるのだ」という思い込みが原因だったわけです。

花粉症はⅠ型のアレルギー反応がひきおこす疾患で、
IgEという免疫グロブリンがマスト細胞に結合したときに
マスト細胞から放出されるヒスタミンやロイコトリエンといった化学伝達物質が
鼻水や鼻づまり、涙などをひきおこします。
話をさきほどのバラ花粉症の女性に戻しますと、以上のエピソードは、
ヒトは暗示によってその免疫系が影響を受けることを示唆しています。
実際、マスト細胞には交感神経系のノルアドレナリンや副交感神経系のアセチルコリンの受容体があり、
化学伝達物質のマスト細胞からの放出も自律神経の影響を受けていることがあきらかとなっています。
このバラ花粉症の女性も何かに興奮しただけで鼻炎をおこしたりしていますが、
これも自律神経が免疫に影響していることの例証でしょう。


この記事はヨガライフスクールインサッポロ機関紙 「未来」342号(2014年6月5日発行)に掲載された記事です。

著者
小井戸 一光
癒しの森内科・消化器内科クリニック 院長

癒しの森内科・消化器内科クリニック

略歴
1977年、北海道大学医学部卒業。北大第3内科入局、臨床研修を受ける。

1982 年より自治医科大学放射線科で超音波を含む画像診断や、画像を用いておこなうがん治療(IVR)に従事。

1985年より札幌厚生病院消化器内科医長。消化器疾患の診断と内視鏡・IVR治療をおこなう。

1996年より札幌医科大学放射線科助手。消化器疾患の画像診断、がんの非手術的治療の研究に従事。1999年講師、2007年准教授。この間、イギリス王立マースデン病院、ドイツアーヘン大学、カナダカルガリー大学に出向。

認定資格
日本内科学会認定内科医、日本消化器病学会専門医、日本内視鏡学会専門医・指導医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医、日本超音波学会専門医・指導医、医学博士