他人の痛みがわかること
私たちは日常生活のなかで、他人の痛みや苦しみを、まるで自分のことのように感じることがあります。たとえば、誰かが机の角にひざをぶつけて顔をしかめたとき、「あ、痛い!」と思います。ある時は、ドラマの登場人物が階段を転げ落ちるシーンを見て、体がムズムズするような感覚を覚えることもあります。このような現象は、単なる想像力の産物ではなく、私たちの脳に備わった「共感の神経回路」が関与していることがわかってきました。
かつて共感は、他者の感情や状態を理解し、自分の内側に反映する能力とされ、哲学的にも古くから議論されてきました。他人の感情に心を動かされる能力が人間関係や倫理の基盤であるとされていました。
しかし、20世紀後半以降に科学が発展すると、共感は脳内の特定の神経回路に支えられていることが実証的に示されるようになりました。「他人の痛みを見ているときに、自分が痛みを経験しているときと似た脳領域が活動する」という発見もそのひとつの例です。
わたしは注射が嫌いです。インフルエンザ予防接種の順番待ちの時、先に予防接種を済ませた人が、注射の痛さを口にしながら出てきたときは、ぞっとします。自分が受ける注射の痛みをより強く感じるような気がしていました。
それは気のせいではなかった、という研究結果が示されました。他者の感じ方、身体的な痛みや負荷の大きな課題など、自分の感覚に影響を与えているのです。
アメリカの研究です。111人の参加者を対象にした実験で、自分以外の参加者の評価とされる情報が先に示されました。たとえば、身体的痛みとして腕に熱刺激を加えたり、他人が痛がる動画を見たりという課題です。他者の評価が熱刺激によって極度の痛みを感じたことが示された場合、自分の受けた実際の熱刺激が弱くても、参加者は痛みを強く感じることが示されました。
私たちは他人の大変さを感じることができるようにできています。
この記事はヨガライフスクールインサッポロ機関紙 「未来」485号(2026年5月7日発行)に掲載された記事です。
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