白馬の騎士カルキ
- インド哲学
今年の干支は、午(うま)ということで、馬にちなんだお話しをしてみましょう。インドでは、実は、馬よりは牛の方がポピュラーです。牛は、インダス文明以来インド人の暮らしに欠かせない重要な役割を果たしてきました。インドの人たちは、牛を聖なる動物として非常に尊重するのです。一方、それに比べますと、馬というのは、それほどインド人には身近ではありません。
しかし、そうはいっても、いくらか馬にかかわる神話なども見つけだすことができます。その中で、一人カルキという英雄の名をあげてみましょう。
かれは、白馬にまたがる英雄とも言われたり、馬の頭を持った巨人であるとか、また、ただ白馬であるとも言われます。そして、なんとかれは、まだこの世には登場してこない未来に現れる英雄なのです。
インドにおいては、生き物たちは生と死とくりかえし輪廻していくと考えられていますが、この世界も、また同じように、生成・消滅をくりかえすとされます。世界創造から破滅までの周期はとても長いのですが、その一つの周期は、内部がさらに四つの時代に分けられます。最初は、正しい法が100%行き渡る黄金期クリタ・ユガです。それから4分の1正法が欠けてしまうトレータ・ユガ、正法が半分しか行き渡らないドヴァーパラ・ユガ、そして、最後は、正法がわずか25%しか存在しないカリ・ユガという時代です。
ところで、現代は、どの時代にあたっているとお思いですか。黄金期?いいえ、残念でした。実は、最悪のカリ・ユガの時代なのです。この時期は、道徳は廃れ、悪徳が栄えます。天災や飢饉が起こり、戦争や暴力、不正や不義などさまざまな悪いことが起こり、人々の寿命はどんどん短くなっていきます。強欲になって、お金のためなら、いろいろな悪いことも平気で行うような悪習がはびこっていきます。どうでしょうか。現代は、あたっているでしょうか。
さて、このような悪徳の時代、このカリ・ユガが終わりを迎える頃に現れるのが、英雄カルキなのです。かれは、シャンバラ村の優れたバラモン(司祭階級)であるヴィシュヌヤシャスの家に生まれる、とされています。そして、成人すると、蛮族(ダスユ)を打ち破って、この世にふたたび正義をもたらしてくれるのです。この時代に残った人々は正義の民となって、やがて来るクリタ・ユガの糧となっていくのです。
この記事はヨガライフスクールインサッポロ機関紙 「未来」337号(2014年1月6日発行)に掲載された記事です。
著者 |
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略歴 ヨガライフスクールインサッポロ講師、北星学園大学、武蔵女子短期大学、その他多数の大学、専門学校にて非常勤講師として教鞭をとる。著書に『インド新論理学派の知識論―「マニカナ」の和訳と註解』(宮元啓一氏との共著、山喜房佛書林)、『ビックリ!インド人の頭の中―超論理思考を読む』(宮元啓一氏との共著、講談社)、『ブッダ論理学五つの難問』(講談社選書メチエ)、『龍樹造「方便心論」の研究』(山喜房佛書林)、『ブッダと龍樹の論理学―縁起と中道』(サンガ)、『ブッダの優しい論理学―縁起で学ぶ上手なコミュニケーション法』(サンガ新書)、『龍樹と、語れ!―「方便心論」の言語戦略』(大法輪閣)、『龍樹―あるように見えても「空」という』(佼成出版)がある。 |